エピタラミア——婚礼歌
Ἐπιθαλάμια
解題
アレクサンドリアで編まれたサッポー歌集の最終巻は婚礼の歌から成り、ほかの巻 が崩れ去ったのちも、古代人はこれらを引用しつづけた。ここに集めた十二の断片 のうち六つは、韻律学者ヘファイスティオンがある詩形の一行の実例を求めたがた めにのみ残ったものである。これらはサッポーの書いたもっとも公の詩である。 恋愛詩はひとりの声でひとりに語りかけるが、祝婚歌は上演のための作品だった ——新床の扉の前で乙女たちの合唱隊が歌い、花嫁の友と花婿の友が掛け合いの戯 れ言として交わし、宴の喧噪ごしに叫ばれた。残っているのは婚礼の一夜の式次第 まるごとの残骸であり、本作はその残骸を慣例の順序のまま印刷する。各断片には 標準のローベル=ペイジ/フォークト番号を付し、それを保存した古代の著者をソ ース・ファイルに注記した。
配列は夕暮れから祝福の喚呼へと進む。断片104、羊を、山羊を、子を母のもと へ連れ帰る宵の明星への呼びかけ——そして言葉にされぬまま、花嫁を花婿のもと へ——は、この詩種全体の蝶番であり、バイロンの「おおヘスペロスよ、汝はすべ てのよきものをもたらす」がいまも流通させている。断片105は、サッポーが花 嫁のために作ったもっとも名高いふたつの直喩を収める。枝のいちばん先で、手の 届かぬまま赤らむ甘い林檎(忘れられたのではない——届かなかったのだ)と、そ の暗い双子、羊飼いたちが山で踏みしだくヒヤシンスである。断片107、109、 114は別れの歌に属する——乙女の身をいまも恋しく思うのかと自問する花嫁、 婚約を告げる父の一行の答え、そして「乙女の身」その人が扉の向こうから答える 小さな対話——もう二度と来ない、と。それらを囲んで戯れの歌が立つ。足が七尋 で牛五頭ぶんのサンダルを履く門番(110)、花婿へのからかいの比べ歌と祝い の言葉(112、113、115)、そして断片111、大工たちの喚声——棟木を 高く上げよ、花婿はアレスにもひとしく入来する——は、J・D・サリンジャーが 表題に借り、いまなおギリシア語でもっともよく知られた擬似英雄体である。締め くくりの挨拶(116、117)はセルウィウスとヘファイスティオンが保存した、 この形式のもっとも裸形のすがたである。花嫁に喜びあれ、花婿に喜びあれ——そ の語はカイレ、「喜べ」と「さらば」とをひとつに言う。
ギリシア語本文はエドウィン・マリオン・コックス『サッポー詩集』(一九二四年) に拠るパブリック・ドメインの校本であり、その読みは印刷のまま保持した。とこ ろどころの印刷の乱れ(いくつかの断片で「花婿」を表す語の一字が脱落している) は意味によって訳し、訳者ノートに記録した。校訂者による補綴は[角括弧]の内 にとどまり、本文が途切れるところでは訳文も途切れる。
あなたは羊を連れもどし、山羊を連れもどし、子を母のもとへ連れもどす。
φέρεις οἴν, φέρεις αἶγα φέρεις ἄπυ ματέρι παῖδα.
いちばん高い枝のそのまた先で。林檎摘みたちは忘れていた——
いや、忘れたのではない。届かなかったのだ。 // 山々のヒヤシンスを、羊飼いの男たちが
足で踏みしだくように——地に伏して、花は紫を深める。
ἄκρον ἐπ᾽ ἀκροτάτῳ, λελάθοντο δὲ μαλοδρόπηες,
οὐ μὰν ἐκλελάθοντ᾽, ἀλλ᾽ οὐκ ἐδύναντ᾽ ἐπίκεσθαι. // Οἴαν τὰν ὐἀκινθον ἐν οὔρεσι ποίμενες ἄνδρες
πόσσι καταστείβοισι, χάμαι δ᾽ ἐπιπορφύρει ἄνθος.
サンダルは牛五頭ぶんの革づくり、
靴匠十人が精根尽くして仕立てあげた。
τὰ δὲ σάμβαλα πεμπεβόηα,
πίσυγγοι δὲ δέκ᾽ ἐξεπόνασαν.
成し遂げられた。祈ったとおりの乙女があなたのものだ。 // そして恋しさをさそうその顔には、蜜のようなやわらぎが注がれている。
ἐκτετέλεκτ᾽ ἔχεις δὲ πάρθενον, ἂν ἄραο. // Μελλίχιος δ᾽ ἐπ᾽ ἰμμέρτῳ κέχυται προσώπῳ.
Β. もう二度とあなたのもとへは来ない、もう二度と来ない。
Β. Οὐκέτι ἤχω πρὸς σέ, οὐκέτι ἤχω.
しなやかな若枝に、あなたをいちばんうまくたとえよう。
ὄρπακι βραδίνῳ σε κάλιστ᾽ ἐϊκάσδω.
喜びあれ、誉れある花婿よ、いくたびも。
χαῖρε, τίμιε γαμβε, πόλλα.